ベクトル空間とは、以下の10個の性質を満たす要素の集合のことです。
1. ある集合の任意の二つの要素を足すと、結果もまたその集合に存在する。
2. ある集合の任意の要素と任意のスカラーの掛け算もまたその集合に存在する。
3. 任意の要素\(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b},\boldsymbol{c}\)について、\((\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b})+\boldsymbol{c}=\boldsymbol{a}+(\boldsymbol{b}+\boldsymbol{c})\)が成り立つ。
4. 任意の要素\(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\)について、\(\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b}=\boldsymbol{b}+\boldsymbol{a}\)が成り立つ。
5. 任意の要素\(\boldsymbol{a}\)について、\(\boldsymbol{a}+\boldsymbol{0}=\boldsymbol{a}\)を満たす要素\(\boldsymbol{0}\)が存在する。
6. 任意の要素\(\boldsymbol{a}\)について、\(\boldsymbol{a}+(-\boldsymbol{a})=\boldsymbol{0}\)を満たす要素\(-\boldsymbol{a}\)が存在する。
7. 任意の要素\(\boldsymbol{a}\)とスカラー\(k,l\)について、\(k(l\boldsymbol{a})=(kl)\boldsymbol{a}\)が成り立つ。
8. 任意の要素\(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\)とスカラー\(k\)について、\(k(\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b})=k\boldsymbol{a}+k\boldsymbol{b}\)が成り立つ。
9. 任意の要素\(\boldsymbol{a}\)とスカラー\(k,l\)について、\((k+l)\boldsymbol{a}=k\boldsymbol{a}+l\boldsymbol{a}\)が成り立つ。
10. 任意の要素\(\boldsymbol{a}\)について、\(1\boldsymbol{a}=\boldsymbol{a}\)を満たすスカラー1が存在する。
そして、ベクトル空間の要素のことをベクトルと呼びます。ただし、この定義によるベクトルは、方向と大きさを持つベクトルに限定されません。
「方向と大きさを持つベクトル」と「ベクトル空間のベクトル」を区別したい場合は、方向と大きさを持つベクトルは幾何ベクトル、ベクトル空間のベクトルは抽象ベクトルと呼びます。
幾何ベクトルは、抽象ベクトルの一種と言えます。